平成30年度開催のセミナー


第一回 平成30年5月22日


◆現場で間違いなく役に立つ行動変容理論の基礎と応用(江藤敏治 教授)

多数の住民の方に保健指導をする上で重要なことがあります。それは、保健指導を行う、皆さんが楽しく仕事できているかどうかです。皆さんが自分の価値の重さに気づき、自己肯定感に包まれていることが聞いている人に安心感を与えてくれます。そのための自己充実を是非図ってください。

 

行動変容を促す効果的な保健指導や住民啓発活動に対しては多くの理論が存在します。健康信念モデル、社会的認知理論、行動変容ステージ理論、計画的行動理論、ストレスコーピング、社会的支援など様々です。それぞれの理論はこれまでに学習した通りですが、今回は集団保健指導や啓発活動を行う上でのノウハウをお伝えします。でも何より大切なのは、話をさせて頂いて「ありがたい」「感謝」と感じる皆さんの内面の豊かさです。上手に話す必要はありません。

 

住民啓発に際し大切なことは、まず参加者の耳を作ることです。そのためのアイスブレークはとても重要です。次に必要なこととして今何が必要なのか情報を共有することです。そのためには正確な情報の伝達と、その情報の意味を理解してもらうことです。理解に続いて大切なことは、参加者に自分のこととして考えてもらうことです。身の回りのことに例えて説明すると割と簡単に伝わります。これからが重要ですが、健康支援のプロとして、必要な対処法を伝えることです。ポイントとして、簡単、安価、面白い、更に自分がそれを実践するイメージを持ってもらう、時には声に出して宣言してもらうことも効果的です。その様子を周りの人に賞賛してもらうと更に自己効力感が増していくと考えられます。

 

一番重要なことは、その行動を起こすことで自分が大切にしている自分の価値を置いているものの価値がさらに増していくという自己肯定感の向上です。その自己肯定感なしにはすべての行動は一過性で終わってしまうと考えられます。セオリーにとらわれず、参加者を信じて、信じ切る姿勢で伝えてください。

 

◆現場と研究室を連結する統計学(藤井 良宜 教授)

今年度のセミナーの第1回目ということで,統計データを活用することの必要性について説明した。現在,私たちの周りにはさまざまなデータが蓄積されているが,なかなかそれらを活用することは簡単ではない,と考えられている。しかし,これらのデータの中には,さまざまな性質が隠されている。それらを見出すことは,それほど難しくはない。その時には,それほど難しい手法を用いる必要はなく,目的をもってさまざまな角度からデータを眺めることが大切である。今回は,基本的な統計的な問題解決のサイクルについて説明し,今後の健康データの分析に活用してもらえるようにし,今後のセミナーの流れについて説明を行った。


第二回 平成30年7月17日


◆日常業務に応用できるアンガーマネジメント(青石恵子 准教授)

アンガーマネジメントとは、1970年代にアメリカで生まれたとされている怒りの感情と上手く付き合うための心理教育、心理トレーニングです。最近イライラして怒った経験はありませんか?「怒る」という感情は人間にとって当たり前のものですが、怒り方を間違えると自分を取り巻く人間関係に支障が出てしまうことがあります。

 

アンガーマネジメントって怒らなくするトレーニングでしょ?と思われている方もいらっしゃいますが、怒らなくなることが目的ではなく、怒る必要のあることは上手に怒れ、怒る必要のないことは怒らないで済むようになることです。アンガーマネジメントの理論とテクニックを学ぶことで、自分の感情は自分が生み出しているものであると気づき、自分の考え方、あり方を変えていくことで今よりもずっと自分の周りの人も健康的に生活できるようになることを目標としています。ストレスの多い現代社会にはアンガーマネジメントは必要な知識です。これからもセミナーでは講座を開きますので、ぜひ受講していただき円滑な人間関係を築いていきましょう!

 

◆ひむかヘルスクラウドの利用案内(吉元寿林 クラウドマネージャー)

Googleの有料クラウドサービスである「G Suite」を利用して、宮崎県内の保健医療行政の担当者向けにWEB上の情報スペース「ひむかヘルスクラウド」を整備しました。

以下のコンテンツの利用方法のご案内と試用を行いました。

 

① e-Learning

ひむかヘルスリサーチセミナーで試用したプレゼンテーションやセミナー動画を紹介

 

② ビデオ会議システム

PC・タブレット・スマートフォンからアクセスできるWEB上の会議スペース。ライブチャット・画面の共有などを用いて、時間的・空間的な制約を受けにくい双方向コミュニケーションや会議、打ち合わせ等に活用してもらう。

 

③ インターネット調査システム

県内市町村担当者への情報収集や住民への調査等を、PCやスマートフォンなどを用いて行い、即座に集計できるシステム。

 

④ ファイルの共有

メールでは送ることの難しい大きなファイルを送付したり、複数の人とファイルをやりとりしたりするためのスペース。

 

◆使いこなす、役に立つ、わかり易い“GIS”(中尾裕之 教授)

GIS(Geographical Information Systems,地理情報システム)とは「文字や数字,画像などを地図と結びつけて,コンピュータ上に再現し,わかりやすく地図表現して,位置や場所からさまざまな情報を統合し,分析することができる仕組み」のことです。

 

フリーソフトウェアの「MANDARA」を使って,そのインストールから,宮崎県市町村別SMRなどを使った演習を行い,地図を作成しました。また,市町村の担当者にとって役に立つ,市町村小地域の地図を用いる方法について,解説しました。

 


平成30年度 日本地域看護学会学術集会ワークショップ


◆統計指導編「3年間のセミナー運営の秘訣とSNS会議クラウドシステムの構築」

日本地域看護学会のワークショップでひむかヘルスリサーチセミナーとは何かを発表した内容です。平成30年度で4年目を迎え、それまでの3年間のあゆみと今年度どのように発展を遂げてきたかを説明しました。

 

年間のセミナー参加者は約300名で宮崎県に限らず県外の方にも学会等を通して認知度を高めています。現在は4つの部門で運営しており、疫学統計部門、健康指導スキルアップ部門を基本としたセミナー構成になっています。スライドには参加者の皆様からいただいた声をもとにセミナーの評価をイラストに反映しています。今年度から本格的にクラウド部門が始動し、ユーチューブやテレビ会議システムなどを導入し、遠隔地でもセミナーに参加できる工夫をしています。またホームページやFacebookも充実させて、情報の発信に尽力しています。

 

3年が経過して、本セミナーの研究支援事業を通して宮崎県から地域医療保健のエビデンスを発信し、様々なところで活用していただいています。また、地域特性を把握し、地域自治体をはじめとした医療保健行政機関との共同研究事業を展開し、現在は4件と締結しています。研究事業の成果も今後、ご報告していきたいと考えています。

 

◆保健指導編「長時間労働者に対する効果的な面談」

産業保健スタッフによる長時間労働者への面談は事業場には必須項目です。過重労働が心身に与える影響を伝えるとともに長時間労働を行っている従業員の個別性を考慮した面接指導が重要となります。もちろん、労働時間の長さ以外にも労働者に与える要因として①不規則な勤務②拘束時間の長い勤務③出張の多い業務④交替制勤務・深夜勤務⑤温度環境・騒音・時差(作業環境)⑥精神的緊張を伴う業務の他に家族や友人からの社会的支援の有無など個人的なものも多々含まれますが、その面談方法についてロールプレイを利用して学びを共有しました。

 

産業保健の現場では、健康診断事後指導やメンタルヘルスを含め種々の面談業務があります。苦労の絶えない業務ですが、クライアントが主体的に行動変容を起こしていく様子を目の当たりにすると、我々にもやりがいや達成感が得られ、医療看護職が天職であると実感できます。ロールプレイを通して実際の保健指導を体験してもらったが、大事なポイントとして、対象が何に自分の価値を置いているか気づいてもらうことであり、その方法として価値観のトレイを利用することを方法論として学んだ。

 

参加者の感想には、「いつも悩んでいたことが、このワークショップに参加して晴れた気がする。とても参考になった。」「是非一度セミナーに参加したい。」「楽しく参加できました。」「患者さんへの指導支援は、患者さんの行動変容の前に、まず自分が変わることがすべての始まりだと気づきました。」など高評価であった。参加者の保健指導の魅力がさらに輝く素晴らしい機会にできたと考えられた。

 


第三回 平成30年9月18日


◆行動変容に導くNatural Emotion 1st edition(江藤敏治 教授)

健康支援を行う際に大切なことは、対象がどのようなステージにいるか理解することから始まります。そのように言うと行動変容のステージ理論を考えますが、それ以前のマズローの欲求理論のステージです。人が行動を起こすのに、①新しい知識を得た②感動した③なりたい自分を描けた④できそうだと感じた⑤納得したという5つの要素が必要です。そして、その思いは自身の存在するマズローの5階層に基本的に依存することになると考えられます。生理的欲求の第1階層、安全欲求の第2階層、社会的欲求の第3階層、尊厳欲求の第4階層そして自己実現欲求の第5階層です。健康支援者は、対象がどの階層に存在するか適切に把握し必要な支援を提供していくことが、対象の効果的な行動変容を促していくことに繋がっていきます。

 

その支援の際に必要な支援者の態度として「共感」が対象に伝わることが重要です。そのための言葉、表情、しぐさとなります。なにより、対象が「理解」してくれていると感じること、つまり、我々が対象にとって「安心できる存在」であると認知してくれることが最も重要な点になります。私たちにとっては対象を「信じ切る」ことができる人間力を磨いていくことが大切であると考えています。

 

◆使いこなそう“R”の魅力解析(藤井良宜 教授)

無料の統計解析パッケージであるRは,さまざまな統計手法に適用できるため,近年幅広く用いられるようになってきている。しかし,使いこなすためには,必要なコマンドを入力したプログラミングを作成する必要があるため,初心者にはかなり敷居が高い。そこで,今回は,RをベースにしたEZ-Rを使った統計解析手法について説明を行った。データの入力から,データのグラフ化や簡単な指標の計算など,健康データの分析で用いられる基本的な手法の取り扱いについて説明し,実際に解析を行ってもらった。このソフトウエアを利用することで,身近のデータを分析し,そこからさまざまな情報を見つけ出すことができることが期待される。


第四回 平成30年11月13日


◆効果的な職域禁煙推進の仕方 決定版!(江藤敏治 教授)

厚生労働省は平成31年4月から職域や公共施設での受動喫煙予防を更に強化することを決定しました。その背景には、受動喫煙予防への対策の遅れと市民への啓発強化があげられます。今回は誰もが納得し、自分から進めていく効果的な職域禁煙推進について説明します。

 

職域禁煙を阻むものは何でしょうか?それは無知ゆえに生じる中途半端な人権擁護です。言い方に棘があるかもしれませんが、受動喫煙対策に一番反対する人は「自分は吸わないけれど、吸う人がかわいそう」という一見穏健でバランス感覚にあふれていると自分で感じている人です。これはヒューマニズムからの発言ではなく、事実を知らないが故であると考えます。誰も人のタバコの煙が原因でがんにはなりたくないでしょう。またそのようなことを他者に及ぼそうと考える喫煙者もいないと思います。自らの責任の及ぶ範囲で愉しむと皆が考えているはずです。だからこそ、受動喫煙の本当の姿を知った喫煙者は、新たな命のために、孫のために、大切な存在のために、自ら禁煙するという選択を選ぶのです。

 

禁煙支援というと「禁煙させる」というイメージを持ちやすいですが、あくまでも私たちはサポーターです。対象が必要とする情報やメソッドを的確に対象に伝わるように伝えることが重要です。そして何より大切なことは対象との間の確かな信頼関係です。大海原のかじ取り役であり道標です。とてもやりがいのある重要な存在となります。

 

◆やってみよう!触れてみよう!因子分析(中尾裕之 教授)

因子分析とは,「多くの変数間の相関が見られる場合,これらの変数間に内在する因子を探る」分析手法の一つです。社会学,教育学,看護学,ヘルスケア分野等でよく用いられています。

その因子分析について,フリーソフトウェアの「EZR(イージーアール)」を使って,食物摂取状況調査のデータを使った演習を行い,人々の食事のとり方について,文化や伝統に由来する特徴について,分析を試みました。

 


第五回 平成31年1月22日


◆エビデンスを健康指導に活かす魅力的な健康支援法(江藤敏治 教授)

健康志向のまちづくりの実現は、高齢化、過疎化の進む宮崎県において地域住民のQOLの向上の視点から極めて重要です。平成25年度の日南市は高齢化率31%、医療費は県下で最も高く、特定健診受診率も37.2%と低いことから、健康に対する意識啓発が急務でした。私たちは平成26年6月日南市と事業提携後、宮崎県立看護大学の人材とスキルを投入し、健幸講演会や健康大会等54回開催し、市民の参加者数は3300名に達しました。日南市と緊密な連携を重ねた結果、平成27年度健診受診率は42.9%へ上昇し、一人当たりの生活習慣病にかかる医療費は平成24年度66,400円から60,930円へ減少する結果を残し、市民の健康志向の向上に寄与したと考えられました。

 

この活動で感じたことは新富町での出張セミナーのページ(104P)に記載しています。是非ご参照ください。この活動における私たち大学が果たした役割は何かというと、54回のセミナーや大会を通して、一般市民ボランティアの養成と自己肯定感の向上、マズローにおける5段階の自己実現欲求の承認を常に念頭に置いたことである。また、セミナー内容を毎月の市報で市民に伝えたこと、セミナー内容を健康情報に重きを置くのではなく、生き甲斐づくりとしてなりたい自分に焦点を置きながら、そのための健康づくりと常に第2目標として取り入れたことである。そして、参加した皆がとBも立ちになり、笑顔があふれ、安心できる居場所としてのセミナー会場になるように重きを置いたセミナーとしました。

 

エビデンスは非常に大切な行動変容のアイテムですが、それは、ただ、自分事として考えてもらう為の納得のできる材料としてのみデータを活用し、自分事として考えたあとの夢や楽しみを分かち合う時間としてのセミナー作りを心がけました。

 

これらの啓発活動は、日南中心市街地活性化支援事業終了後に、市民健康推進員大会啓発活動につながり、日南市創客創人大学開校に繋がり、ひいては、ボランティア養成を行った「日南げんき応援隊」が平成29年度の宮崎県健康長寿最優秀県知事賞をいただき、私たちの活動が健診受診率を上げ、生活習慣病に係る医療費を下げるという実績で平成30年度の宮崎銀行ふるさと振興助成に選ばれました。大学が地域に貢献する上でこの上ない評価を頂き本当に感謝しております。

 

◆充実した保健師活動の展開法(松本憲子 准教授)

◆演習テキスト分析(中尾裕之 教授)

計量テキスト分析とは「インタビューデータなどの質的データ(文字データ)をコーディングによって数値化し,計量的分析手法を適用して,データを整理,分析,理解する1つの方法」です。

フリーソフトウェアの「KH Coder」を使って,そのインストールから,夏目漱石の「こころ」を題材としたチュートリアル演習を行いました。

 


市民公開講座「宮崎県民が知っておきたい健幸への近道」


◆しっかりガン予防10ヶ条(江藤敏治 教授)

現在、日本人の死因の28.7%が悪性新生物です(平成24年度)。一生の内、がんと診断される割合は、男性62.7%、女性46.6%と、既に万が一がんになったらという時代ではなくなってきました。また、生活習慣病の最たるものが「がん」です。癌のリスクを軽減する、早期発見に努めることこそ私たちが対処し得る「がん」対策です。

 

2人に一人はがんにかかる時代において最も重要なことは早期発見のためのがん検診です。現在有効とされているがん検診は、胃がん、肺がん、大腸がん、乳がん、子宮がん検診です。胃がん検診を受けることで52%の死亡率低下、大腸がん検診では72%の大腸がんによる死亡率を軽減させるという報告もあります。宮崎県のがん検診受診率は極めて低い状況です。みなで啓発していくことが大切です。

 

がん予防には免疫力の低下を防ぐことが重要です。主なリスク要因に、加齢、肥満、暴飲暴食、ビタミン不足、ストレス、運動不足、喫煙、紫外線などがあります。すべての人が喫煙しなければ、発がんは半分に減ると言われています。また、ヘリコバクターピロリ菌と胃がん、肝炎ウイルスと肝臓がん、ヒトパピローマウイルスと子宮頸がんの関係もわかっています。ワクチン、除菌、抗ウイルス剤が著効します。以上の結果から、しっかりガン予防10か条を提唱します。